
サプライチェーンの断絶から考えるスマート工場のセキュリティ 〜リモートで変わる生産の業務〜
製造業の設備投資は長期的な戦略に基づいて計画されます。まず背景として、パンデミック以前からの製造業の設備投資の動向について、日本を例に振り返ります。2020年5月に経済産業省が発行したものづくり白書によれば、設備投資動向において「資産が生み出す利益が増加し、新規に設備投資するポテンシャルは年々高まっているものの、実際の設備投資の伸びは低調であると読み取れる」という考察があります。生産の現場は、老朽化していく設備で、新しい製品をより高い品質とより高い効率で生むための改善を続けてきた成果として利益率は向上しました。90年代のバブル崩壊からの30年間、日本の国内需要は伸び悩み、労働力を維持しながら内部留保を確保する中で、戦略的に大きな設備投資は積極的ではなかったことを示唆しています。その結果として、近年は労働力の不足と工場及び設備の老朽化が課題視されています。労働力を補うためのデジタル技術やオートメーションによる省力化、工場の統廃合を受けて、大規模なスマート工場の計画が進みつつあります。
工場の支出は、土地や建物、装置といった設備投資と保守・修繕費、光熱費、人件費といった運用費に分けられます。前者はCAPEX(Capital Expenditure)、後者はOPEX(Operating Expenditure)とも呼ばれます。CAPEXはキャッシュフローの面でイニシャルの支出となります。一方、損益計算書では減価償却分が毎年支出として計上されますがキャッシュとしては支出されません。工場の建設・運営においては、設備投資と運用費、キャッシュフローの双方の面から単年度の生産と費用だけでなく工場の長期的なライフサイクルの観点でも財務的な計画がなされています。ITの世界では、有形固定資産であるハードウェアから無形固定資産であるソフトウェア、そして運用費であるクラウド・サービスへのシフトが進んできました。財務面でも、より短い期間で償却でき変化に適応しやすくすると同時に、技術の進歩が目覚ましい世界で陳腐化の影響を低減する狙いもあります。これらはスマート工場のOT領域でも同様の流れが生じると考えられます。CAPEXからOPEXへの転換は、スマート工場を成功に導く一つのキーとなるでしょう。
(2020年12月に掲載)